酔記

美に殉死 愛の闘争

小さな自慰

青い琥珀洗練された修辞法美女の下痢 私はぐるぐると粘膜の滑り台を落ちていった怯えて、怯えて 最後に鼓膜が破れて、死んだんだ!

ヴェール

酩酊は俺をどこにも連れてゆかない接吻の冷たい痛みに震えながら冷たいというのはこんなに美しかったっけと俺はもう一度、背中を丸めた 眼下の闇にはだだっ広い河原が息をしていて育ちの良いレース刺繍は呆気なくほどかれてゆく 俺は正直飽き飽きしている愛…

キャンバス

まっ白なキャンバスのまっ白な真ん中に俺はぽっかり浮いているまたとない有象無象の夢が瞬くように泳いでは消え放縦なヴィーナスの如く冷たい布地に跳ね散る (暗転) まっ黒なキャンバスのまっ黒な真ん中に俺はぽっかり浮いているまたとない有象無象の夢が…

ダビデ

君は石だ鏡に非対称性を捧げ酔い潰れたメデューサの紅い毛髪の朽ち果てた瞳の重さを受け止める 太陽を月をとてつもなく大きな光を人々は称揚するが誰にも見えないのだろう対称性の向こうに消えそうな目の輝きを眩い嘆きを 燃え尽きた命の星を蹴り飛ばして夜…

蜘蛛の糸

きらびやかな嘘の潮風に零れ落ちた太陽のしずくを探して錆びた始発列車に飛び乗った 昨晩からどうにも内臓は愛情に飢えて力なく千切れた脳をぶらりぶらりと引っかけたままどれが本当の俺なんだろうと朝まで問う 咎めたければ咎めれば良いさ俺は窓外に目をや…

呼吸

光は追わなければならぬそれは盲従ではなく、純心の淘汰である 淡い出来心で駆け上るガラスの慈悲の螺旋階段はどこへも通ずることなく造花の薔薇の台座となる 消えゆく光のボルボックスを痙攣する薔薇に重ねて押し返す粘性の情熱を閉じた瞼に乗せた 早朝の青…

悪い夢I

地獄の隅をモンシロチョウが舞う剥がれ落ちた虚栄の粒は二度と帰らぬ鱗粉となる 深緑の表層は裸の真珠に呑まれ形骸化した蹄が風のリボンを踏みしだくこの地獄を眼前にして清澄たる翅は異国の波となるという (オレンジ色の無人島) めくるめくエントロピーの砂…

招待状

紳士淑女をなお超えて 美麗の微笑む皆様方へ さあ倦怠した虚像に何を託そう細胞活動をつぶさに成し遂げるべく流動する柱を再構築する世界 或いは今ここに託すべきかもしれぬ豪奢なシルクをふんだんに重ねてウールやコットンをしとど纏い潰えぬ星屑のごと静脈…

沈丁花

銀の触手は永遠となり或いは冷たい月となり今宵も踊る 心臓のワルツ 赤らんだ君の頬はすっかり夜の水に透けて恐怖と恍惚を押し流してゆく おお、この瞬間こそ生であると琥珀は蟲を閉じ込めたツイード生地の鱗粉を薔薇色の裸に散りばめて 俺の記憶じゃ間違い…

顕微鏡

それはまるで溶けだした柑橘類のように濡れたうなじを舌で拭う しどけない死の匂い 一方俺は墨汁の香りをコトコトと楽しみながら薄暗い花屋の奥で無意識を抱き寄せる あんたも罪だねえ 乾杯 また乾杯 それから並んでリボンを毟る一粒一粒、ささくれた汁を撒…

時の皺

砂と煙に呑まれて拾えぬ記憶が一つ何事もなかったかのように踊る水の精は私の瞳をじっと見つめる あの日の言葉が川からこぼれる水草に絡むあぶくは僕の心にも…… くすんだ筆跡と雪解け水の光沢どこにも存在しない心は影を伸ばすたび気まぐれな記憶の住人となる…

ナーズローに捧ぐ

埒を開けよう!純白の血気を失うことなく秋空を奔走する可憐な毛糸 嗚呼、悲しき星の定めか鈍色の人間たちは彼女を嗅ぎ分ける散逸するルビーの潮風は誰よりも遠くに届くのだから ナーズローの温もりは物質の夢を夜に捨てただ一輪の睡蓮に 已むを得ん、日記を…

現代讃美歌

日本社会はEDである見給え不能な若人たちをプラトニックな恋人たちの疲弊に潰れし魂を「今どきの若者は」カカカカカ!嗚呼古今東西 ユビキタスこれこそ我らが定めですぞ 効率簡便単純を醜悪矛盾複雑性は一切合切認めませんあいつはとうとうEDにそれが最もブ…

境界と悪魔

慇懃無礼な信仰に身を弄び 花嫁は独りオレンジを啜る メケメケと剥け散る皮の匂いは 現代社会を濃霧に包み やがて落ちゆく道徳の花 限りなく白く あらゆる汚濁をシルクで覆い あるいは酸に溶かして 幾重にも幾重にも 死んだ肉体 やがて消えゆく道徳の花 蝕む…

セイレーンが啼く

セイレーンが啼く陰惨な雨 憧憬の岩虹色の甘藻を悴む指に肌の粒 翼の鱗 すべて落ちて屍の匂い いと芳しく 曇天を穿つ巨大なドリル有機物の塊 したたる甘藻歯車の動脈は膨れ上がり轟轟たるその溝に鴎は卵を産み落とす潰れぬように…… 誰が守る?この巨大なドリ…

綻び

何も変わらぬ渋谷のビルジングのほとり 何もなかったように笑う ぽつりぽつり風を縫って街灯が 汚い坂道を照らす内に 滔々と蠢く人混みは 善意も悪意も知らぬ 記憶とは名ばかり 約束もしらばくれて 肌を重ねて朝を迎える セロハン 二杯のカクテル 戻らぬ後悔…

自転車を捨てかけた話

五年半乗った自転車を遂に捨てることにした。走行距離はおそらく少なくとも6000㎞超とかだろうか、ブレーキやら車軸やら様々な部分の不調が増え始め、修理費がかさむからと自転車屋に買い替えることを勧められたのである。新しい自転車選びは少しワクワクす…

イソギンチャク

雨、降りそうだねって ぎこちなく笑う 雨、空、暗い だってそうだもの。世界はいつだって。 見えないのに見えるフリして 空っぽの橋を揺らしてる 見えてるのに見えないフリして 橋から落ちたのは、誰かしら? 残念ね… 傘ならあげるわ… そうそう、それから 雨…

蛞蝓

紫色の三味線をかき鳴らしてスライム製の唇は雷を這う錆びた鉄格子をなぞりながらぽきんぽきんとお辞儀する私は嗚呼なめくじになりたい苔むした心を蝕んで赤い足跡引き摺りながらうだるような健気さにただ無力帰る場所は何処優しく弦が切れる音だってこの耳…

俺たちの全て

青天の霹靂オレンジの街灯に沿って形骸化した花火のような若さの瞬間が一心不乱に駆け抜けてゆく叶わぬものも去り散るものも拾い集める暇なんてなくて無慈悲な柔らかさは心を解放するくだらねえ!日々のしずくよ青臭い黴に魘された街の夜のほとぼりを見たの…

殴り書き

殴り書きみんな京都を去っていく。僕も含めてだ。関西にはいるし、東京の友人も未だに「京都に会いに行く」とか言ってくれる(京都に行きたいのか俺に会いたいのかは別として)が、京都にはいない。生活に鴨川がない。あんだけ鴨川で話し込んだ彼も彼女もあ…

若年の夢はかくの如し

純真無垢は錆び付いて硝子を喉に押し込んだ誰をも傷つけないために流す涙は夜の紅(べに)嗚呼飲まずとも泣かずとも硝子は君を傷つけて或いは君に傷つけられて時の流れに鞣される若年の夢はかくの如し嫋やかな、しなやかな、その肉の世の真実に耐えかねて骨を…

近況報告(抜粋)

お久しぶりです。今、大学のキャンパス間を走る学内バスに乗っているのですが、雨粒で滲む窓外に、赤やピンク、白に咲き乱れるツツジが大量に佇むのが見えます。あまりにも鮮やかでほとんど人工的な不気味さすら覚えるようなこの天然の造形物を眺めながらも…

忙しい話

最近恐ろしく忙しい。正確には、忙しいということを認識し始めた。 よく忙しいとこぼす人を非難する人がいるが、僕にはよく分からない感覚である。彼らの言い分としては、みんな忙しいんだから自分だけ不平をこぼすなだの、そんなのは忙しいに入らないだの、…

秋川の死

翌朝、私と秋川は六時ごろに宿を出て、まだ日の上りきらぬ道路沿いを散歩することにした。部屋に上着を取りに戻った秋川を外で待ちながら、私は植え込みの葉の縁を指でなぞっていた。昨夜の出来事は一体何だったんだろう?この朝の冷気が何もかも薄めてくれ…

骨踊り

芍薬の妙技に耐えかねて軽妙な小踊りをいざ犬犬犬!犬まで踊る飲めや歌えや大騒ぎほれ豆絞りすら靡かせて月に梯子を立てかけようじゃんけんぽんのあっち向いてホイ!次はあんたの番ですながたつく梯子に揺さぶられさらに蹌踉めく心持ち銀色の月光!照らされ…

猟犬と美少年

緋色の布につつまれて猟犬の艶 零れ落つ瞳は琥珀の鏡のごと白銀の森と美少年をあれをごらん!夢に滴る断末魔乱れし毛皮の雪化粧木々のオペラの渦潮に胡蝶の涙は白く舞う雪温く 臓物は香るあの子は森の人気者時を染めゆく黒髪は誰も知らずに夜を知る嗚呼 本当…

回転木馬

まわるまわる世界はまわる回転木馬は泣き濡れてレンガの壁を這う虫の足音に似た猜疑心あの音は一体何だろう!俺が嫌いなあの音は長椅子で草臥れる俺の睫毛を撫で回し日々忍び寄るあの音は巡る季節の生活の鈍い切れ目に染み込んでは我が安寧を盗み去る厭よ厭…

群衆

寂れた町のはずれに柳の輪郭が、紫色の夜に揺蕩うようにセンチメンタルが身を隠す良識と無知とが世界の秩序に沈み込む裡に急ぎ家路に着きなさいとそっと戦慄く唇俺は、ひたすらに走った軽快なマーチと共に動乱は足を引き摺り通りを進むその土埃は群衆の美徳…

男と女

※性的描写及び暴力的描写を伴います。フィクションです。 第一章 鍋の煮立つ音が、暗い小さなキッチンに響く。塩、白菜、エリンギ、それとわずかな肉。ほとんど香りのしない湯気を、女はその大きな鼻腔に吸い込んだ。少し吐き気がするが、自分で右のこめかみ…