酔記

美に殉死 愛の闘争

ヴェール

酩酊は俺をどこにも連れてゆかない
接吻の冷たい痛みに震えながら
冷たいというのはこんなに美しかったっけと
俺はもう一度、背中を丸めた

眼下の闇にはだだっ広い河原が息をしていて
育ちの良いレース刺繍は呆気なくほどかれてゆく

俺は正直飽き飽きしている
愛の啄ばみも 質素な常識も
インテリの黄色い笑顔も
澄み渡る虚栄も
なにひとつ、俺の瞳孔に値しない

なにひとつ

俺は暗闇に唇を探した
いつの間にレースはほどけきって
彼女の白い肉が川に濡れていた


真に耐えがたいのは、腐敗ではなく、停滞である


夜明け前の濃厚な静けさに
小さな肉体が流れてゆくのを見届けると

大衆が忘れ去った凍てつく接吻を
俺もまた川に放り投げて
太陽の梯子を待った……