酔記

美に殉死 愛の闘争

回転木馬

まわるまわる

世界はまわる

回転木馬

泣き濡れて


レンガの壁を這う虫の

足音に似た猜疑心


あの音は一体何だろう!

俺が嫌いなあの音は


長椅子で草臥れる

俺の睫毛を撫で回し

日々忍び寄るあの音は


巡る季節の生活の

鈍い切れ目に染み込んでは

我が安寧を盗み去る


厭よ厭よも好きの内

ぶくぶく膨れるその狂気に

俺はぴしゃりと平手打ち

命からがらキスをした


四肢生い茂る森の奥

池を覗けど誰も居ず

気付けば冷たい海の底

嗚呼人生の深淵とやら

畢竟俺も孤独なのだ

真実を語るナイフこそ

憂いを纏うファム・ファタル

フィルムカメラを投げ捨てて

星に照らされ犬死を


交わす涙

溶ける血潮

野垂れ死ぬからもう許せ

俺の命を忘れておくれ

お前の美徳が望むなら

這いつくばって靴すら舐めよう


真実を方々探し

或いは見て見ぬふりをして

義憤と忘却の歯車に噛まれたお前は

永遠の五線譜を焔が舐めゆくように

時の谷間を転げゆく



まわるまわる

世界はまわる

回転木馬

泣き濡れて


その碧眼は

もう見えぬ