酔記

美に殉死 愛の闘争

群衆

寂れた町のはずれに

柳の輪郭が、紫色の夜に揺蕩うように

センチメンタルが身を隠す


良識と無知とが

世界の秩序に沈み込む裡に

急ぎ家路に着きなさいと

そっと戦慄く唇


俺は、ひたすらに走った


軽快なマーチと共に

動乱は足を引き摺り通りを進む

その土埃は

群衆の美徳と狂気を誘惑する


突如老婆が飛び出して

あらん限りに叫ぶ声

凶器は鈍器から生まれる

鈍器は自然から産まれる

群衆の叫びは

やがて悲鳴となる


それは、一瞬の出来事


高貴なる花弁に

こぼした涙を

人は忘れ、忘れ

果てしなき贖罪の道を

自ら好んで耕し続ける


良い奴だけが死んでゆく

土を喰らうように

死んでゆく


悪徳はさめざめと

その血に息づく美徳を

長い耳の陰に忍ばせる

腐敗した群衆は

その美徳とやらを

無知な良心から砥ぎ光らせる



俺には何も信じられぬ

毛皮に包まれし

かのセンチメンタルのほかは

偽善と偽善とが接吻し

石を投げ合うこの星に

脳溝の緻密な鼓動は

一体何を与えるのか


俺は、ひたすらに走った

己の良識と無知から逃れるために


俺は、ひたすらに走った

花を一輪

枯らさぬために