酔記

美に殉死 愛の闘争

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

顕微鏡

それはまるで溶けだした柑橘類のように濡れたうなじを舌で拭う しどけない死の匂い 一方俺は墨汁の香りをコトコトと楽しみながら薄暗い花屋の奥で無意識を抱き寄せる あんたも罪だねえ 乾杯 また乾杯 それから並んでリボンを毟る一粒一粒、ささくれた汁を撒…

時の皺

砂と煙に呑まれて拾えぬ記憶が一つ何事もなかったかのように踊る水の精は私の瞳をじっと見つめる あの日の言葉が川からこぼれる水草に絡むあぶくは僕の心にも…… くすんだ筆跡と雪解け水の光沢どこにも存在しない心は影を伸ばすたび気まぐれな記憶の住人となる…

ナーズローに捧ぐ

埒を開けよう!純白の血気を失うことなく秋空を奔走する可憐な毛糸 嗚呼、悲しき星の定めか鈍色の人間たちは彼女を嗅ぎ分ける散逸するルビーの潮風は誰よりも遠くに届くのだから ナーズローの温もりは物質の夢を夜に捨てただ一輪の睡蓮に 已むを得ん、日記を…

現代讃美歌

日本社会はEDである見給え不能な若人たちをプラトニックな恋人たちの疲弊に潰れし魂を「今どきの若者は」カカカカカ!嗚呼古今東西 ユビキタスこれこそ我らが定めですぞ 効率簡便単純を醜悪矛盾複雑性は一切合切認めませんあいつはとうとうEDにそれが最もブ…

境界と悪魔

慇懃無礼な信仰に身を弄び 花嫁は独りオレンジを啜る メケメケと剥け散る皮の匂いは 現代社会を濃霧に包み やがて落ちゆく道徳の花 限りなく白く あらゆる汚濁をシルクで覆い あるいは酸に溶かして 幾重にも幾重にも 死んだ肉体 やがて消えゆく道徳の花 蝕む…