酔記

美に殉死 愛の闘争

2022-01-01から1年間の記事一覧

綻び

何も変わらぬ渋谷のビルジングのほとり 何もなかったように笑う ぽつりぽつり風を縫って街灯が 汚い坂道を照らす内に 滔々と蠢く人混みは 善意も悪意も知らぬ 記憶とは名ばかり 約束もしらばくれて 肌を重ねて朝を迎える セロハン 二杯のカクテル 戻らぬ後悔…

自転車を捨てかけた話

五年半乗った自転車を遂に捨てることにした。走行距離はおそらく少なくとも6000㎞超とかだろうか、ブレーキやら車軸やら様々な部分の不調が増え始め、修理費がかさむからと自転車屋に買い替えることを勧められたのである。新しい自転車選びは少しワクワクす…

イソギンチャク

雨、降りそうだねって ぎこちなく笑う 雨、空、暗い だってそうだもの。世界はいつだって。 見えないのに見えるフリして 空っぽの橋を揺らしてる 見えてるのに見えないフリして 橋から落ちたのは、誰かしら? 残念ね… 傘ならあげるわ… そうそう、それから 雨…

蛞蝓

紫色の三味線をかき鳴らしてスライム製の唇は雷を這う錆びた鉄格子をなぞりながらぽきんぽきんとお辞儀する私は嗚呼なめくじになりたい苔むした心を蝕んで赤い足跡引き摺りながらうだるような健気さにただ無力帰る場所は何処優しく弦が切れる音だってこの耳…

俺たちの全て

青天の霹靂オレンジの街灯に沿って形骸化した花火のような若さの瞬間が一心不乱に駆け抜けてゆく叶わぬものも去り散るものも拾い集める暇なんてなくて無慈悲な柔らかさは心を解放するくだらねえ!日々のしずくよ青臭い黴に魘された街の夜のほとぼりを見たの…

殴り書き

殴り書きみんな京都を去っていく。僕も含めてだ。関西にはいるし、東京の友人も未だに「京都に会いに行く」とか言ってくれる(京都に行きたいのか俺に会いたいのかは別として)が、京都にはいない。生活に鴨川がない。あんだけ鴨川で話し込んだ彼も彼女もあ…

若年の夢はかくの如し

純真無垢は錆び付いて硝子を喉に押し込んだ誰をも傷つけないために流す涙は夜の紅(べに)嗚呼飲まずとも泣かずとも硝子は君を傷つけて或いは君に傷つけられて時の流れに鞣される若年の夢はかくの如し嫋やかな、しなやかな、その肉の世の真実に耐えかねて骨を…

近況報告(抜粋)

お久しぶりです。今、大学のキャンパス間を走る学内バスに乗っているのですが、雨粒で滲む窓外に、赤やピンク、白に咲き乱れるツツジが大量に佇むのが見えます。あまりにも鮮やかでほとんど人工的な不気味さすら覚えるようなこの天然の造形物を眺めながらも…

忙しい話

最近恐ろしく忙しい。正確には、忙しいということを認識し始めた。 よく忙しいとこぼす人を非難する人がいるが、僕にはよく分からない感覚である。彼らの言い分としては、みんな忙しいんだから自分だけ不平をこぼすなだの、そんなのは忙しいに入らないだの、…

秋川の死

翌朝、私と秋川は六時ごろに宿を出て、まだ日の上りきらぬ道路沿いを散歩することにした。部屋に上着を取りに戻った秋川を外で待ちながら、私は植え込みの葉の縁を指でなぞっていた。昨夜の出来事は一体何だったんだろう?この朝の冷気が何もかも薄めてくれ…

骨踊り

芍薬の妙技に耐えかねて軽妙な小踊りをいざ犬犬犬!犬まで踊る飲めや歌えや大騒ぎほれ豆絞りすら靡かせて月に梯子を立てかけようじゃんけんぽんのあっち向いてホイ!次はあんたの番ですながたつく梯子に揺さぶられさらに蹌踉めく心持ち銀色の月光!照らされ…

猟犬と美少年

緋色の布につつまれて猟犬の艶 零れ落つ瞳は琥珀の鏡のごと白銀の森と美少年をあれをごらん!夢に滴る断末魔乱れし毛皮の雪化粧木々のオペラの渦潮に胡蝶の涙は白く舞う雪温く 臓物は香るあの子は森の人気者時を染めゆく黒髪は誰も知らずに夜を知る嗚呼 本当…

回転木馬

まわるまわる世界はまわる回転木馬は泣き濡れてレンガの壁を這う虫の足音に似た猜疑心あの音は一体何だろう!俺が嫌いなあの音は長椅子で草臥れる俺の睫毛を撫で回し日々忍び寄るあの音は巡る季節の生活の鈍い切れ目に染み込んでは我が安寧を盗み去る厭よ厭…

群衆

寂れた町のはずれに柳の輪郭が、紫色の夜に揺蕩うようにセンチメンタルが身を隠す良識と無知とが世界の秩序に沈み込む裡に急ぎ家路に着きなさいとそっと戦慄く唇俺は、ひたすらに走った軽快なマーチと共に動乱は足を引き摺り通りを進むその土埃は群衆の美徳…

男と女

※性的描写及び暴力的描写を伴います。フィクションです。 第一章 鍋の煮立つ音が、暗い小さなキッチンに響く。塩、白菜、エリンギ、それとわずかな肉。ほとんど香りのしない湯気を、女はその大きな鼻腔に吸い込んだ。少し吐き気がするが、自分で右のこめかみ…

「今」の感覚はいつからあっただろうか。普段生きている間、意識されることはほとんどない。たまに意識される時が勝手に訪れる、或いは意識する。 連続しているかのような時間を、分断し分断し分断し続ける。0のようで0でない、この瞬間をやっと感じたと思っ…

骨董屋

冤罪隷従ファム・ファタルシルクドソレイユフェルメール功名雪辱七百リットルカラマーゾフの電気椅子剪断絢爛メンタル崩壊淫らな慟哭大理石鮮烈劣悪悪魔の契約ヤク漬け昆布の漂流記緩慢泥濘自惚れ坊や路地裏レンガの七分丈放蕩獰猛レイシズム檸檬の残骸ハイ…

接吻

私は半月と接吻した。 月といえば表面のクレーターがでこぼこと無骨に唇を舐めそうであるが、実際はずっと黄金で柔らかい粘り気のあるそれであった。 視界には太めの白とブルーの縞模様が広がる。階段を降り続けるとゲシュタルト崩壊が起きて足元を救われそ…

月の時間

(君)あと何歩歩いたら月へゆけるのかしら?(僕)月と地球は繋がってはいないよ。そうかしら?と君は首を傾げる。月光は鱗粉となりその頸を流れ落ちゆく。青翠色に光る肌。一月の寒さが空に降り積もって、淡いポートレートの内に、今夜の月をぴたりと封じてい…