酔記

美に殉死 愛の闘争

2021-01-01から1年間の記事一覧

ジャズの静脈

音楽、匂い、記憶。どうしようもないものだ。潮の満ち引きのように。僕らの意志の及ばぬところにある。神の戯れか、ちっぽけな脳、有限の神経細胞、そこに揺らめく記憶、想い出は無数。いつ甦るのか、或いは甦ることなく死を迎えるのか。母の顔、父の顔。ミ…

白銀色の電柱が数本、無造作に並ぶ、夜の雪原。当然星は見えない。雲があるわけでもない。ただ、見えない。五線譜の延長線上を、木靴で歩き続ける音に、恟々として草は踊る。踊らされているとも言えよう。紅い絨毯の下に埋もれた生暖かい鉄球を踏みつけない…

Happy Birthday, Rimbaud

自然科学は、自己存在と世界(ここでは思い切ってこの二つを並列する)の理解、その宿命の受容に必要な、謂わば冷淡な救済であった。そして芸術とは、慈悲深く美しい呪いである。不完全という緻密な奇跡によって飾られた生命は、必ずしも我々の存在を称揚する…

Happy Birthday, John

水になりたい。強いて言うならば、烏賊や蛸なんかが良い。或いは猫。猫は可愛い。自立と自己防衛、優しさと無関心の境界を見つけるのには甚だ苦労するし、その結果甲虫みたいな外骨格生物に変貌してしまうのは厭なのだ。かといって内骨格生物も実のところ筋…

飛翔すること

頼むから、星屑を絡め取るような四肢をうねらせて、囁きかけるのは止してくれ。所詮宇宙は針金なのか?人間が愛おしい。人間は愛おしい。人間は堪らなく醜くもあるのだが……。世界が緑色になってしまっても人間は灰の如く燃え続けるのだろうし、雲に映った太…

風の粒が、額から、腕から、当たっては砕ける。それはあたかも連続であるようで、非連続性に対して不感になるのが恐ろしく、また、興醒めでもある。実際のところ、粒がどこまで浸透し、どこで砕けるのかは私には分からない。懸念すべきは、なぜ砕けるかなの…

外骨格

俺はいわば、緑色のカブトムシの、乾いた殻を破り出てきたような状況で、頭の周りは無数の花火に埋め尽くされている。記憶の逆流に伴う妙な圧迫感を、喉のあたりに感じては、羞恥と忘却との谷間へと転げ落ちる。風を切る間もなく、火のつかぬ灰のごとく、転…

実験 Day3

精霊の呼ぶ声。均一な振動の上に、微かに調子の狂った翠。彼らのいる場所は、森だろうか?泉だろうか?コンクリートに包まれて僕らは悩む。本当は捕まえたくて仕方がない。そこいらの発明品では到底歯が立たないことも、分かっている。彼らは、秀麗なる残滓…

実験 Day2

かりそめの言葉。住み慣れた場所。真心。誰もが盲目になることを望まないくせに、脇目も振らずに駆けようとする。小さい紙切れに何かを書いて、もっと小さく、小さく、丸める。優しく、壊れないように、それでも小さく、押し丸める。それが終わったら、風の…

実験 Day1

滔々と流れ落ちる優しさはいつも、どこにゆくでもなくただ冷たく澄みかつ濁りを失わない。川が湧き水へ逆流しないように、時間が決して戻らないように。噛み潰したミントの匂いは、これと少し似ているようでまた違う。苦虫も噛み潰せぬようでいて、何を語れ…

言葉が憎いことについて

先日、言葉が憎い、と酔ってツイートしたが、シャワーを浴びた後にツイートを消した。僕自身が言葉を大事にしたいとよく思っているし、言葉に救われたことも何度もある。言葉を紡ぐ人が好きだし、言葉によって生み出される世界が好きだ。すべて語りきること…