酔記

美に殉死 愛の闘争

蛞蝓

紫色の三味線をかき鳴らして

スライム製の唇は雷を這う

錆びた鉄格子をなぞりながら

ぽきんぽきんとお辞儀する私は


嗚呼なめくじになりたい

苔むした心を蝕んで

赤い足跡引き摺りながら

うだるような健気さにただ無力

帰る場所は何処


優しく弦が切れる音だって

この耳には有り余る喧噪

せめて白カビを剝がしてから

陽の当たらぬ此処に来て


嗚呼なめくじになりたい

苔むした言葉を蝕んで

とめどなく雨に洗われ

塩に埋もれてべにょりべにょり

帰る場所は何処


嗚呼なめくじになりたい

決してあの日の絵は叶わない

ただぎしぎし鈍い日々は

毛穴を薄い粘膜で埋めゆく


胸騒ぎ、嘘交じり、丸被り


醒めざる陶器をまた今日も…