酔記

美に殉死 愛の闘争

沈丁花

銀の触手は永遠となり
或いは冷たい月となり
今宵も踊る 心臓のワルツ

赤らんだ君の頬は
すっかり夜の水に透けて
恐怖と恍惚を押し流してゆく

おお、この瞬間こそ生であると
琥珀は蟲を閉じ込めた
ツイード生地の鱗粉を
薔薇色の裸に散りばめて

俺の記憶じゃ間違いなく
あの夜は沈丁花が咲いていた
螺鈿のリードじゃ鳴らないはずの
永遠の蠢きを俺は見た

やがて無慈悲にあっけなく
世界は夜明けの手を引いて

俺は賀茂川を 君は高野川を
無意識に遡り寝床を探す
触れ得ぬ林檎を抱きしめて

俺たちは未だ生を知らない